ネットワーク時代の人道支援

OCHAは先頃「ネットワーク時代の人道支援」と題したレポートを発表致しました。東日本大震災の経験も含め、情報技術の発展が緊急人道支援にとってどういうことを意味するのか。このレポートの要点を紹介させて頂きます。

1.ネットワーク時代の到来が、災害対応の方法に変化をもたらした

2012年、全世界で携帯電話の契約数は60億件を突破し、このうち10億件はスマートフォンでした。今では世界の人口総数よりも、携帯電話の契約件数の方が上回っています。2015年までに、発展途上国の人口の半分がインターネットにアクセスできるようになると見込まれています。

一般市民ももはや単なる情報の受け手に留まらず、活発な発信源であり、またこうした情報の分析者となっています。そこでこのレポートは、人道支援の在り様という点で、援助機関から被災コミュニティー自身へのパワーシフトが起こりつつあると指摘しています。

例えばフィリピンでは、政府当局がグーグル危機マップサービスをその公式ウェブサイト上で活用し、またソーシャルメディアを使って情報を共有しています。被災コミュニティ自身もインターネットを駆使して、支援活動を組織しています。

従って、「かつては往々にして、政治的指導者や援助機関関係者が被災者の支援ニーズを遠く離れた場所から推測していたが、今は被災者自身が自らのニーズを直接伝えるツールを手にするようになった。」とこのレポートは関係者に警告しています。

こうした新しい技術がもたらしたチャンスと課題に適応していかなければ、人道支援機関は被災者との緊密なつながりを失うことになりかねません。

2.情報は生死に関わる根本的な人道ニーズである

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今年初め、シリアからの難民が100万人の大台を突破したことを憂慮して一連の写真を公開しました。最も大事な所持品を手にポーズをとってもらうよう難民の方々に依頼すると、ユースフ(写真の少年- 写真提供:UNHCR)は自分の携帯電話を掲げて言いました。「これがあれば、父に電話することが出来るんだ。今はシリア国境の近くにいるから、シリア国内の電波塔からシグナルをキャッチできる時もあるよ。」彼の携帯電話には、今もシリアに残る家族の写真も保存されていました。災害や紛争などで被災した方々にとって、情報は水や食糧、一時避難所と同じくらい重要なのです。通信サービスは欠くことの出来ない人道ニーズのひとつと捉えられるべきであり、発災時には最優先で復旧されなければなりません。情報や通信へのアクセスとは、様々なネットワークに繋がる能力そのものであり、ニーズを伝え、大切な人を探し出し、必要な支援を組織する能力に他ならないのです。

3.人道情報を収集・共有・分析する方法が根本的に変わらなければならない

2012年7月に執筆されたこのレポートは、2010年にハイチで猛威をふるったコレラの集団発生について、もしツイッターを常時モニターしていたらもう2週間早く検知出来ていただろうと分析しています(41頁参照)。

また、情報は被災者にとってのみ重要ということではありません。レポートによれば「ネットワーク時代の到来で、人道支援機関がより緊密に関わりあう機会が与えられた」からです。

新たな技術はより多くのデータ収集を可能にし、その結果膨大なデータセットの中から特定のパターンをより迅速に見出すことが出来るようになりました。同時に、情報を常時モニターすることも可能となりました。そして人道支援機関としてもこうしたチャンスを捉える必要があります。ビッグデータの果たす役割を認識し、情報公開の重要性を認め、デジタルヒューマニタリアンネットワークのようなイニシアチブを通じて、通信会社など新しいタイプのパートナーとの関わりを深めるためには、人道支援機関自身がまずもってデータを収集・共有・分析する方法を進化させなければなりません。

4.情報の倫理的利用に関するガイドラインが早急に求められている

これら新しいタイプの情報やデータの扱いには注意を要します。新たな情報共有システムは、特に公的性格を有し透明性が求められる組織にとって、新しいタイプのリスクをももたらすからです。「新しいデータソースを用いた場合、情報の出所まで容易に辿れるようになる怖れがある。」とレポートは警告しています。

特に紛争による被害者を支援している機関にとって、匿名性を担保出来るかどうかはとりわけ重要な課題です。人道支援に携わる者は産業界を含むさまざまなパートナーと協力して、倫理的で安全なデータ利用のための規定を作成しなければなりません。

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